和田の本棚(2021. 2 №40)

 

和田の本棚

和田の書棚から「気になった一冊」をとりあげて紹介いたします。

著者:レスター・R・ブラウン

発行所:ダイヤモンド社

2012年2月2日第1刷発行

定価:2200円(税別)

<本紹介>

記録的な熱波や洪水、それらは決して自然災害ではない。2007年の段階ですでに人間は地球の再生能力をもって持続可能に得られるものを50%も上回った要求をしている、という調査結果がある。私たちは地球の自然資本を取り崩しながら、自らの消費をあおっている。かつてないほどに切迫し、複雑で規模の大きい難題に対峙している現代。「世界はもはや崖っぷちに立たされている」と、表題(原題はWorld on the edge)にその思いが強く表れている。文明の持続可能性について多くの警鐘を鳴らし続けてきた環境問題の世界的第一人者である著者(ニュージャージー州の農家出身)が「80億人を希望を導く」最終処方箋として書かれた本。

<気になった言葉>

〇これまでの文明で、自らを支えてくれる自然を破壊し続けながら生き残ったものは一つもない。私たちの文明も同じだろう。(7P後ろから9L~)

〇気候変動、石油業界に対する税制優遇措置、軍隊による石油供給の防衛、石油業界に対する補助金、原油流出、自動車の排気ガスに関連する呼吸器疾患の治療など―この外部コストをおよそ0.8ドルという米国のガソリン価格に上乗せすると、1リットル当たりおよそ4ドルになるだろう。これこそが本当のコストである(255P後ろから5L~)

◎エクソン社のノルウェー・北海担当副社長だったオイスタン・ダーレは、こう述べている。「社会主義は崩壊した。市場に経済の真実を語らせなかったためだ。資本主義は崩壊するかもしれない。市場に生態系の真実を語らせないためだ」(256P後ろから6L~)

〇多くの社会変革は、社会が転換点に達するか、あるいは重要な閾価(※しきい価、臨海価、限界価ともいう)を超えたときに起こる。いったんそうなると、変革は急速に、しかも予想だにできない形でやってくることが多い(270P10L~)

〇一般的に見て、政治的リーダーシップを測る基準は「課税対象を労働から環境破壊活動にシフトできるかどうか」となるだろう(277P後ろから8L~)

…は中途略を表わします

 

[感想]

私たちが直面している地球規模の問題の構造をとてもわかりやすく優しく伝えてくれる。なぜこうなったのか、こうせざるを得ないのか、そしてこのままだとどうなるのか、本書が書かれたのは2012年であるが、現実はさらに切迫し、もっと厳しいものになっている。なのに私たちは世界中で貧困が、飢餓が、海水に沈む国土がどんどん広がっているのに自分に火の粉がかからないと変われない。報道では見て、聞いているけれど、慢性的な飢餓と栄養不良を抱えた10億人超の人たちを、海面の上昇で祖国を失っていく人々を自分の心で見ることもしていない。

「社会的な目標と地球を修復するために必要な年間追加支出額」を著者は1,850億ドルと試算している。そしてその対比に上げているのが米国の軍事予算6,610億ドル、世界の軍事予算15,220億ドルである。「コストがかかるというが、環境が破壊され、たくさんの人々が飢餓に襲われ、亡くなっていくそのことをどうはかるのか」という問いかけが何度も出てくる。

今、コロナでまた「経済」ばかりに気をとられていることがそらおそろしい。「原子力や石化エネルギーの方が安くて効率的」というが、私たちはそこにかかっている本当のコストを知ることもなく、まやかしの会計システムに踊らされている。膨大な潜在可能性があるにもかかわらず、日本の地熱エネルギー分野が政府からもらっている研究開発資金はゼロ、風量は年に1,000万ドル、他方、原子力は年に23億ドルを得ているという。

こうしたアンバランス、立ちはだかる強固な既得権益に「知らない」ではすまされない。「危機に瀕しているのはわたしたちの未来なのだ。あなたの未来と私の未来なのである」から。

 

[和田のコメント]

第二次世界大戦後の70年余は、日本ばかりでなく世界中が一言で言えば「成長資本主義」で走ってきた。1972年にローマクラブが「成長の限界」と称して「資源と地球の有限性」に着目し「人口増加と環境汚染などによって100年以内に地球上の成長は限界に達する」と警鐘を鳴らした。その頃はまだ「温暖化」のことには触れていなかった。しかも50年前である。
最近はあと10年、2030年すぎくらいが地球の分岐点になると世界の権威ある機関が発表している。日本政府でさえ「2050年までに脱炭素社会の実現をめざす」と宣言した。
ユニクロの柳井さんも最近、「このままでは地球は今の世代で終わりになる。今を生きる我々が人類全体を真剣に考え、行動しないといけない。地球は有限であることをもう一度自覚しなければいけない」と発表した。そして企業としてSDGsを具体的に実践し、環境問題に取り組むと宣言している。
スウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥーンベリさんはまだ18歳であるが、15歳の時にトランプやプーチン大統領にかみついた。彼女の言っていることが20年、30年後に現実にならなければ良い。
このレスター・ブラウン氏に、私は20年以上前から注目している。ぜひ、皆さんにも、そして皆さんの子どもたちのためにも読んでほしい本である。