和田の本棚(2021.5 №43 )

 

和田の本棚

和田の書棚から「気になった一冊」をとりあげて紹介いたします。

著者:岩橋文吉

発行所:財団法人モラロジー研究所

2005年6月10日第1刷発行

定価:1000円(税別)

<本紹介>

日本の歴史的大変革である明治維新のさきがけとなり、終(つい)に千秋の人(千年の歴史に名を残す人)となった吉田松陰の生涯とその心血を注いだ勉強の実態を辿りつつ、その大きな志を通して“活きた学問・勉学”のあり方と重要性を提言、これからの人生をデザインしていく学生・生徒に語りかけるやさしくも味わい深い文章で綴られた本。

<気になった言葉>

〇人生設計の生涯学習に消極的になる…このような意識を持つ背景には、人がそれぞれ孤立して周囲の人々から切り離され、ばらばらの存在になっているという現代社会の人間関係の問題、つまり、自分と周囲の隣人との間に「砂漠化」された人間関係の問題が横たわっているのです(33P5L~)

〇人の世の罪悪がはびこり、人心はますます堕落するにもかかわらず世が滅びないのは、このように隠れたところで天に喜ばれる尊い労苦を積んでいる人がいるからではないでしょうか。この境地こそ「自分探し」の人生設計の学びである生涯学習の究極の醍醐味ではないでしょうか(49P後ろから5L~)

〇礼法や規則は外側から人を制約するものであるから、それよりも自然に気持ちや意志の通じ合う敬愛協同の気風の中で切磋琢磨して、道理や道徳を身に付けさせるのが学問の道としてはるかに優れているのです(129P後ろから6L~)

〇常日ごろは穏やかに優しく礼儀正しく自制して、内面に豊かな精神的貯えのある人こそ、いざというときに大気迫を発揮できるものなのです(132P4L~)

◎まことの自由は理性に従い理性と一体となることによって獣のように本能の欲求のままに束縛された状態から解き放たれるところにあるものです(154P後ろから3L~)

…は中途略を表わします

[感想]

「学ぶ」ことは自分を律することにつながり、天性の発見につながり、天性を信じ、自らを充実させることにつながっていくということ。また、「何のために学ぶのか」、これがあるからこそ活きた学びになり、深化させていけます。けれども今はそうことがないがしろにされたまま、知識や情報が詰め込まれ、親の多くは子どもを大事に慈しんでいるけれども「尊いかけがえのない存在である」ということを伝えてはいません。

吉田松陰は「怜悧すぎて生き急いだ人」というイメージでしたが、(すさまじいほどの)一族の愛情に包まれ、そして自身もまた家族や塾生たちに最後の最後まで気遣いをしていった「愛溢れる人」という側面も感じました。

「人と生まれたからには、真実の人間らしい人間であれ」、「武士以外の身分の者でも心のあり方においては、等しく武士であるべき」「君たちはかけがえのない尊い存在なのだ」という言葉に吉田松陰に学んだ人々がどれほど奮起したことでしょうか。

「講演を聞いた生徒(中高生)や先生の間で多大な反響があり本にした」とありますが、松陰の言葉を原文のまま紹介しながら優しく意味を説いて生徒たちの感受性を呼び起こし、高めていった光景が目に浮かびます。

[和田のコメント]

吉田松陰の生きざまに少しでも触れたいと萩には既に14回ほど訪ねている。驚くのは萩の人々が未だ松陰の考えに尊厳と敬意を払っていること、その証拠に市立明倫小学校の朝礼では1年生から6年生まで松陰先生の言葉を大きな声で朗誦している。小さな子供たちが大声で朗誦する様は清々しい以外のものはない。

松陰先生に関する本は何冊も読んできた。その中でこの本は一番にお薦めする本である。何故なら、私流に勝手に解釈するなら、この本を書かれた岩橋文吾先生(元福岡女学院長などを歴任)が尊敬する恩師、玖村敏雄先生(元広島高等師範学校教授)は「吉田松陰全集全10巻」の編集などをされた本物の吉田松陰研究家でもあられた。その先生から松陰に導かれたと言う。そんなお二人の心血が注がれた本だと私は思う。

吉田松陰の入門書としても、また自分の生活と松陰の考え方を照らし合わせても良い本だと思います。