和田の本棚(2021.6 №44)
和田の本棚 和田の書棚から「気になった一冊」をとりあげて紹介いたします。 |
著者:藤原正彦
発行所:新潮社 2005年11月20日第1刷発行 定価:680円(税別) |
<本紹介>
日本は世界で唯一の「情緒と形の文明」である。国際化という名のアメリカ化に踊らされてきた日本人は、この誇るべき「国柄」を長らく忘れてきた。「論理」と「合理性」頼みの「改革」では、社会の荒廃を食い止めることはできない。いま日本に必要なのは、論理よりも情緒、英語よりも国語、民主主義よりも武士道精神であり、「国家の品格」を取り戻すことである。
刊行後、累計270万部超の大ベストセラーとなり、「品格」は2006年の新語・流行語大賞に選ばれるなど、一種の社会的現象を巻き起こした。すべての日本人に誇りと自信を与える画期的日本論。
<気になった言葉>
〇論理ですべてを貫くというのは欧米の思想です。論理で説明できない部分をしっかり教える、というのが日本の国柄であり、またそこにわが国民の高い道徳の源泉があったのです(50P1L~)
〇論理が通ることは脳に快いから、人々はこのようにすぐに理解できる理論、すなわちワンステップやツーステップの論理にとびついてしまう。従ってことの本質に達しない(64P後ろから7L~)
〇真のエリートには二つの条件があります。第一に、文学、哲学、歴史、芸術、科学といった何の役にも立たないような教養をたっぷりと身につけていること。そうした教養を背景として、庶民とは比較にもならないような圧倒的な大局観や総合判断力をもっていること…第二条件は「いざ」となれば国家、国民のために喜んで命を捨てる気概があること(84P1L~)
〇「平等」ではなく「惻隠」を(90P後ろから5L~)
◎「論理的に正しい」ものがゴロゴロある中から、どれを選ぶか。その能力がその人の総合判断力です。それにはいかに適切に出発点を選択できるか、が勝負です。別の言い方をすれば「情緒力」なのです(150P3L~)
…は中途略を表わします
[感想]
出版された当時もその後もこの本を多くの日本人が手に取り、喝采しました。マスコミもこぞってもてはやしました。でも、それから方向転換がなされたわけではなく、私たちが意識を変えたわけでもない…それどころか事態はさらに悪化しています。
お茶を飲むこと、花を活けること、さらにはお香をきくことさえ「茶道」「華道」「香道」というように高めていき、言葉や所作の美しさを大事にする精神性、武士道精神、そして何より「惻隠の情」に表される「寄り添う心」、こうした人間としての美しさが諸外国から敬わられ、時には恐れられすらもした日本人の特質を私自身も子どもに伝えていないし、示せてもいません。
「日本のものづくり」がこれだけ衰退したのは、「品質にこだわりすぎた」「決断が遅い」「ガラパゴス化」とか色々言われますが、本来の日本人の特質であった「情緒や形(かた)を大事にする」精神を日本人らしさを失ってしまったことも大きいのではないでしょうか。
実は、和田は自身が読んだ本をそのまま私に貸してくれたのですが、「徹底した実力主義も間違い」という章に最も多く赤線が引かれていました。「穏やかな心で生きていけない社会になってしまった」ことへの警鐘をならし、「究極の競争社会、実力社会はケダモノの社会です」と書かれています。
その一方で「たっぷりと身につけた教養に裏打ちされた圧倒的な大局観と総合判断力、俗世に拘泥しない精神性」、「国家、国民のために喜んで命を捨てる気概」この二つが揃ってこその真のエリートであると文中にあり、そういう人のみが国家を企業をそして家庭をリードできると思うし、下手に国民の(家では家族の)顔色をうかがうようなことをしていても埒はあかない(時にはミスリードさえ起こり得る)ということを痛感しました。
この藤原家のように「それは卑怯なことである」「ならぬものはならぬ」と毅然と言い切り、美しいものに、自然に跪く心を育てる、下手な英才教育より、この方がよほどシンプルだし、「真のエリート」が育つ!のだと思います。そして「日本には真のエリートはいなくなった」と書かれていますが、和田が「エリートの条件」である「たっぷりと身につけた教養に裏打ちされた圧倒的な大局観と総合判断力、俗世に拘泥しない精神性」と卓越した行動力を備えていることを誰もが認めるのではないかな…と思っています!「教養に裏打ちされた圧倒的な大局観と総合判断力=(情緒力)」「俗世に拘泥しない精神性」なんて特に!
[和田のコメント]
私が藤原正彦さんを知ったのは、2005年末で、この「国家の品格」が出された時である。「国家の品格」という言葉に興味をもった。国にも品格があるのか?という単純な疑問である。人には「人格」、会社には「社格」がある。と同様に「国家の品格」を読んで「日本の素晴らしさ」「日本人の優秀さ」をある面では分かるようになり「国というもののとらえ方」を学んだ。
藤原さんはこの品格を築くものとして「伝統・歴史の大切さ」を説いている。特に「日本の伝統・歴史は世界でも類をみないものであり、独特・独自の風土をつくり、日本人の持つ、世界でも誇れる精神性である」と説いている。
さらに藤原さんは経済至上主義を否定し、世界のリーダー国になるなら「日本は正々堂々と経済成長を犠牲にしてでも品格ある国家を目ざすべきだ」と喝破している。
国家の品格を築き、維持するためのヒントとして天才の生まれる風土(国家)の条件を取り上げており、私はそこに興味を持った。
その1.「美の存在」・・・美の存在しない土地に天才は生まれない。美しい自然、美しい建物…。
その2.「何かに跪(ひざまず)く心」・・・日本は神や仏、あるいは偉大な自然に跪く。イギリスからノーベル賞がたくさん出ている。彼らは「伝統」に跪いているからであると…。
その3.「精神性を尊ぶ風土」・・・つまり、役に立たないことをも尊ぶという風土。文学、芸術、宗教など直接には役に立たないことも重んじる。金銭や世俗的なものを低く見る。そんな風土であると言う。
つまり、藤原さんはお金とか強欲ではなく、自然を敬い、伝統を重んじ、人間の持つ無限の知的能力から、教養ある人間になれば、国家は品格を持てるのだと説いているのである。
コロナ禍である。世界の国々は新しい競争に入ろうとしている。こんな時期だからこそ、この本を読んでみる価値があると思います。