ワダからのメッセージ (2021/6/28 №83)

小売業のDX化(デジタル・トランスフォーメーション)はどこまで進むのか

世界最大最強の小売業は米国のウォルマートで、その売上規模は直近で5,600億ドル(日本円で約60兆円)である。

今から25年以上も前に本社のあるアーカンソー州のベントンビルを訪ねたことがある。1990年代初めであった。片田舎にある本社を訪れたのは創業者サム・ウォルトンの考えに少しでも創業地で触れるためである。既にその時、売上は世界一になっていた。しかもニューヨークやカリフォルニア、シカゴなどの大都市圏には出店せず、ひっそりと田舎の州に出店攻勢をかけ、成長していた。

サム・ウォルトンは質素・堅実な経営者で、その理念は「お客様は常に正しい」がルール1であり、ルール2は「お客様が正しくないと思ったらルール1に戻れ」、「Every Day Low Price」という理念・方針を徹底し、ムダを徹底的に省くことを会社の戦略として全社員に徹底している。

そしてそのムダを省いたコストは店舗運営のため、物流運営の最適化のためにコンピュータセンターに投資すべきである、というサム・ウォルトンの考えを知った。

その後、ウォルマートは全米に展開、そしてグローバル企業として成長してきている。

このウォルマートの前に立ちはだかったのが特に2010年頃からEC事業に力を入れてきた「アマゾン」である。アマゾンとウォルマートとは生い立ちもそして細かくいえば業態も違うが、同じなのは「消費者に小売りとして販売すること」である。

車社会、ネット社会が進む米国でも小売業としてはECビジネス、そして宅配というサービスは小売業として取り組まなければならないことである。

アマゾンの売り上げは約42兆円であるが、小売カテゴリーに属する売り上げはホールフーズのスーパーの売り上げを含めて40%強と考えられる。

アマゾンはIT企業から出発し、ECビジネス、クラウドサービス(AWS)や動画配信サービスなどで躍進してきた。その源流はネットで本を売ることであった。

一方、ウォルマートは米国の片田舎の小売店からのスタートであり、根っからの小売業として全米に展開した。ウォルマートの凄さはデジタル社会になった「消費者の買い方の変化への対応力」である。リアル店舗にとどまらず、デジタル戦略に最大の投資をすると発表。2021年1月期は約78億ドル(日本円で8,000億円)にもなる。新店投資は僅か1億ドルほどで7割は電子商取引(EC)やITテクノロジー関連などに振り向けるという。

日経MJによると、なかでも注目すべきは広告配信プラットフォーマ―としての戦略構築である。この広告配信プラットフォーマー(ウォルマートコネクト)はウォルマートがアマゾンやグーグルと同じ土俵で戦うという戦略でもある。

まさしくDX化(デジタル・トランスフォーメーション)である。具体的には実店舗内でデジタル看板やセルフレジの端末など約17万台のディスプレイを広告媒体として活用、店舗ごとの人気商品や顧客層・時間帯による売れ行きの違いなどのビッグデータと関連づけることで、消費動向に合わせて広告を出すタイミングや内容を変えるというものであった。

通販から実店舗内での買い物まで広く使われる自社アプリなどを組み合わせた広告も展開。買収した企業のネット広告を自動生成するサンダーインダストリーズの技術を使い、消費者の推定年齢や属性に合わせて最も宣伝効果の高い広告を自動で計算して表示する。サイトやアプリのトップページのほか、商品の検索時や決済画面にも消費者の購入履歴などに応じた広告を表示する。

アプリ上の広告内容には店内のリアルタイムの売れ行きを反映。来店した顧客が価格や在庫の確認などストアアプリを使う際、購入歴に合わせたお薦めの商品や値下げされた食料品を表示するなど消費を促進する。世界最強、最大のウォルマートがDX化を進めているのはコロナ禍で消費者は店舗に行くより宅配して欲しいというニーズが高まっているからであり、この1年でその動向ははっきりとなり、「アフターコロナも宅配サービス(非接触)がノーマルになる」という読みと対アマゾン対策でのDX化なのである。

日本においても元々が「情報武装型小売業」として成長してきたセブンイレブンはビッグデータを担うデータサイエンティストの部隊を強化し、150~200人規模を計画しているという。彼らは同社が強化している様々なIT施策を運営する。例えば力を入れているのが店舗の商品を消費者に届ける「ラストワンマイル」の配送サービス。配送の利用状況などをまとめ最も素早く運べる配送網を選択し宅配するシステムをつくる構想という。

一部地域ではAI(人工知能)を使った発注システムで日々の変動要因に影響されにくい調味料や冷凍商品などの発注に役立てている。

AIや顔認証技術は大量の商品を品揃えするイオンなどで利用が始まっている。店内の何ヶ所にもカメラを設置し、利用者がどんな導線で歩き、どんな商品に触ったか、そして何分くらい滞在して買ったのかなどをデータ化し、売れ行きとの関係で導線計画や陳列の仕方、レイアウト、どの商品をどこに置いたら良いのかをデータで分析して経営効率、売場効率を向上させていくというものである。

このようなことは「個人情報保護」の問題もまだ解決されていない。ただ、世界の潮流として、ECビジネスの成長と共にデジタル戦略(DX)は、どんな事業、企業にとっても必要であり、モノにしていかなければ取り残され、消滅していくことだけは事実である。

業種、会社規模、投資余力、人材確保などはそれぞれの会社によって違うが一歩前に進んで取り組んで欲しいものである。特に中小企業にとって生き残り策としても必要である。

<DX化対応について>

  1. デジタル社会の到来は否応なしに会社経営にデジタル対応を要求する
  2. デジタル対応できなければ企業格差は益々拡がる。そして競争に負ける
  3. 中小企業でもキャッシュレス決済、勤怠管理と給与計算、顧客管理とマーケティング戦略、取引先とのネットワークによる受発注システム等々への対応が迫られる
  4. デジタル化では外部に様々なソフトウェア、コンテンツ、ソリューションサービスがある。社長自らが情報収集、対応して、最適なものを選び、投資することが求められる