和田の本棚(2021.10 №48)

 

和田の本棚

和田の書棚から「気になった一冊」をとりあげて紹介いたします。

著者:白石あづさ

発行所:文藝春秋

2021年8月30日第1刷発行

定価:1650円(税別)

<本紹介>

2018年、行方不明だった2歳児を発見し、一躍時の人となった尾畠さん。「スーパーボランティア」はその年の流行語大賞にもなった。尾畠さんとは一体どんな人物なのか。著者が3年にわたる交流を重ねると、次第に意外な素顔が明らかに。毎朝8キロ走り、家の庭に生えた雑草を食べ、ここ十数年は病気知らず、全国の災害地を飛び回り、毎月、5万5千円の年金で暮らす――超元気な82歳の知られざる人生と胸に残ることばを書き尽くした。フォトグラファーである著者による100枚近くのフルカラー写真も掲載。

<気になった言葉>

〇好きな言葉は「汗かく」「恥かく」「文字を書く」(43P1L~)

〇人の話を聞いたら、自分の心の篩(ふるい)にかける(118P6L~)

◎今の日本に必要なものは他者への想像とほんの少しの優しさではないか。それこそが、人が生きていく上での希望になるのだと、そんな大切なことを何年もかけて尾畠さんから教わった気がする(231P4L~)

〇「小さな細胞の塊が人間だからね、弱いの。これはしちゃいけんなって心でわかっちょっても、誘惑に負けてみたり。それが人間。完璧な人間なんて、私はいないと思うんよ」(233P)

〇「お天道様とは太陽のことだけど・・・・・・その太陽はワシにとってはお母ちゃんなんよ」(287P後ろから4L~)

[感想]

3年!にも及ぶ尾畠さんとの取材というより傍らに寄り添っていくような道行から「姉さんなら、ええよ」と尾畠さんから引き出した言葉や尾畠さんの生き方がシンプルに心に入ってきます。

山に向かって深々とお辞儀をする姿の「透き通るような美しい人に心を打たれた」取材の始まりから、著者である白石さんの「ああ、素敵だなあ」という気持ちがその写真にも溢れていて、すっと筋の通った「尾畠ワールド」を感嘆したり、驚嘆したり、時にハラハラしたりしながら、読み進みました。

尾畠さんのことばの背景には壮絶な人生があります。きょうだい7人の極貧生活、父に代わって一家を支えた母は41歳の時に栄養失調で死去。小学5年で農家に奉公に出され、15歳からは魚屋修業。とび職や長距離トラック運転手をして稼ぎ、29歳で自分の店「魚春」を開業。65歳の誕生日に「魚春」を閉め、ボランティア人生を始めます。

2歳児を救出したことや「スーパーボランティア」という言葉が賑やかにマスコミで踊りましたが、その前に東日本大震災で被災した南三陸町での500日にも及ぶ奮闘があったり、〝やっぱり只者ではない〟尾畠さん。引きこもりだった青年が尾畠さんと一緒に汗をかき、そしてその青年が別れ際に「俺、生きて生きて、生き抜くから!」と尾畠さんに語るエピソードも圧巻でした。

「〝本物〟の人の生きた言葉には、誰かの人生までを動かす力がある」と白石さんも書かれていますが、「人生とは何か、家族とは何か、働くとは何か、死とは何かを徹底的に聞いた」白石さんとの茶目っ気あるやりとり、尾畠さんの言葉に心がほぐれます。

[和田のコメント]

人にはそれぞれ一人ひとりの生き方がある。そしてこんな言葉がある。「人は生まれる時に天から生きるべき道の封書をもらって生まれてくる。それは、あなたはこういう生き方をしなさい」というものである。

尾畠春夫さんの生きてきた道をこの本で読んで、尾畠さんは何一つ文句も言わず〝自分の与えられた生きる道をただただ一直線に82歳の今日まで歩んでこられている〟ことに敬意を払わざるを得ない。

与えられた境遇を懸命に生き、65歳をもって生業の魚屋をさっぱり辞め、ボランティア生活に入る。そのボランティアも自らの運転で500キロ、1000キロをも走っていく。しかも車の中で寝たり、野宿もある。

雑草を食べ、病気知らずで年金5万5千円で暮している。尾畠さんに認められて、3年間の密着取材で「人間・尾畠春夫の人生軌跡」を見事に書き上げたフリーライターの白石あづささんもすごい。この本での二人のやり取りを読めば良く分かる。

尾畠さんの生き方、発する言葉は一生懸命に勉強して大学だけが一つの人生の目的だと思っている現代の日本人の生き方や家庭教育、学校教育への静かなる反論だと思う。まさに尾畠さんの言葉は生きていく知恵であり、勇気であり、希望を与えてくれる。

尾畠さんは「ボランティア活動は自分のためよ!」と言う。それは尾畠さんが10歳の時に亡くなった大好きだったお母さんにあの世で会った時に「春夫!良くがんばったネ」と骨がバキバキ折れるほど抱きしめてもらいたいためという。

この本の感想は「やっぱり尾畠さんは凄い!かなわないなぁ~」である。脱帽!!