ワダからのメッセージ (2021/11/29 №88)

2001年1月に書いた「ひかり輝く21世紀に!」を読み返して…

2001年1月、今から20年前、つまり新しい世紀-21世紀のスタートに際して、当時、会員の皆様に毎月送っていた「WADA通信」の表題は「ひかり輝く21世紀に!」であった。

バブル経済崩壊からおよそ10年、つまり1990年代は日本経済にとって最悪の時期であった。その当時のことをもう一度、資料を元に振り返ってみると

「91年の日経平均株価は2万4,000円台でスタートして、年末には2万3,000円台で年越し、しかし、92年になると3月に2万円台を割って、89年の最高値のほぼ半値になった。さらに8月には1万4,000円台まで下がり、まさに「日本沈没か?」とまで世界中から見られていた。

円相場が1ドル=80円の最高値をつけた95年、山一証券が自主廃業、そして金融機関の破綻が相次いだ91年とも日経平均の安値は1万4,000円台で止まった。

しかし、消費税や社会保険料の引き上げなどによって景気回復は腰砕けとなり、貸し渋りと金融システムへの不安がピークに達した98年10月に日経平均は当時のバブル崩壊後の最安値を更新、1万2,879円まで下げた。大手銀行に対する大量の公的資金の投入が固まって株価はようやく底割れを免れたのである。

「失われた30年」ともいわれる日本経済であるが、最近、この時に救済された新生銀行をめぐってSBIグループがTOB(公開買付)をかけてグループ化、再生にと動いていて、その動向が注目される(※2021年11月24日、新生銀行は買収防衛策を撤回、SBIからの社長受け入れを決定と発表した)。

SBIホールディングスの北尾社長は「国のお金を使いながら返済しないのは盗人と同じだ。我々だったら返済もできる」と公言している。

新生銀行(元・日本長期信用銀行、1998年10月に破綻)は金融機能の再生のための緊急措置に関する法律に基づく初の特別公的管理(一時国有化)がされた銀行である。

その時の国からの借金がまだ約4,000億円近く残っているから、それを早く返済するというのがSBI側のTOBの意思であった。

ここでもう一つの視点として注目したいのが、「失われた30年」の中で大飛躍してその存在感を放つSBIホールディングスのオーナー、北尾吉孝氏だ。1951年生まれだから70歳、彼もまたこの30年の時代変化の中での金融業界の寵児になった。

野村証券のサラリーマンであった時にソフトバンクの担当をし、孫正義氏と親しくなり、ソフトバンクの上場と共にソフトバンクの財務担当としてスカウトされ、同社の財務戦略、投資戦略に力を発揮した。

2006年にソフトバンクから資本的に離れ、SBIホールディングスを設立し、現在に至っているが、売上高は約5,500億円、経常利益は1,400億円、総資産は約7兆2,000億円、従業員数は約8,000人、まさに新興金融財閥になっている。

ネット証券や保険など新しい金融業態の構築をめざしている。さらに、地方銀行が弱体化して、売る商品が無いというところに目をつけ、地方銀行と提携し、新しい金融ネットワークをつくり始めている。

北尾さんが野村証券を離れて約25年、金融業界がどうにもならない状態になっている時に、孫正義さんとの縁で新しい道を見つけ、自らの意志で一大企業グループを創り上げている、まさに金融業界のイノベーターといえるだろう。

そして孫正義さんはソフトバンクの上場とM&A戦略などで北尾さんの力を借りながら、その後は別れ、孫さん自身が世界で最も注目されている投資運営会社、ソフトバンクグループを拡大成長させている。

21世紀の二十数年の大変化の中で、特に2000年のITバブル崩壊、そして2008年のリーマンショックをも乗り超えてきた二人のITという分野と金融(投資)という二つの動きから傍観してみると、彼らにとってはそこが大チャンスであったということがわかる。

また、彼らの後を追随した「フィンテック」と言われるインターネットを活用した金融サービスに挑戦した経営者にとってもこの低迷はチャンスをしてとらえられたのである。

旧態依然とした老舗の証券会社だった松井証券の松井道夫さんはいち早くインターネット証券にビジネスモデルを変革させたが、2019年に「自分の役割は終わった」と第一線から退いた。松井さんの生き方もまた「自らの意志」による決断であった。

一方で、旧態依然としたままの金融機関は統廃合されて今に至っている。

その2001年1月のレポートに私は「次の難題があり、それらはとても深く重いものである」と書いている。それは

①700兆円にものぼる借金国家

②まだまだ未消化の不良債権

③国家ビジョンの欠如

④政党政治の崩壊と本物の国家リーダーの不在

⑤経済ファクターのコアになるものが消滅しつつある

  • 商店街の空洞化
  • 製造業のアジアへの移動
  • 人口構成の変化

⑥少子・高齢化

⑦三つの崩壊(地域崩壊、教育崩壊、モラル崩壊)

⑧凶悪犯罪の増加

⑨産業構造の変化

⑩グローバル化(海外進出、外資参入、人の出入り、ネットワーク化)

21世紀に入って20年、その間に企業は確かにGAFAMに代表されるように新しい産業としてあらゆるモノを変えてきている。世界で製造業の第2次産業企業が覇権を握っていた1940年代から1980年代の40年間とは全く産業構造が違ってしまった。

こうした中で日本は「ひかり輝く国」になってきているのだろうか?また世界も輝く時代を迎えているのだろうか?

私なりの答えは「NO」である。

温暖化問題に代表されるように経済発展と人間の快適な生活の実現は、自然環境を大きく変えて、私たちの住むこの地球そのものに大きな変化をもたらし、それが人類への危機へと向かい始めている。日本の国家の借金は拡大しており、毎年国債発行で賄っている。特に高齢化に伴う社会保障費の拡大は今や120兆円にもなっている。このような問題が山積みしている。

コロナ襲来から2年になり、「アフターコロナ」という言葉が使われる。まさに国家のあるべき方向に向かって政治家も産業界も明確な指針と行動計画を示さなければならないが、それができないでいる。

こういう状態は万人に不安感と危機感だけが醸成されていくから、富める者は益々自分のことを考えていくし、貧困に陥っている人たちは成すすべも分からずあきらめていく。

国も人も「二極化の時代」が鮮明になってきたことだけは確かである。