山梨県の特産品の一つに鹿革に色や模様をつけた「印伝」という伝統工芸品がある。
発祥は戦国時代、武田信玄の時代である。丈夫でしなやかな鹿革は鎧、兜の装飾に重宝された。
江戸時代は、巾着、煙草入れなどが「甲州印伝」として人気があったという。
山梨(甲斐の国)で発達したのは、鹿革と模様付けに使う漆を古くから産出していたからだそうだ。
印伝の製造元は5社あるが、その中で最も古い歴史を持つのが1582年(天正10年)創業の「 印傳屋上原勇七」で、当主は代々、上原勇七を襲名、現在は13代目である。
この印伝を作る技法には「漆付け技法」「更紗(さらさ)技法」など、多様な製法があり、それは秘伝であった。ところが13代目は「上原家だけで一子相伝で技術を継承していたら、いつか途絶えてしまう。この秘伝の技法を社員にも公開しよう」と決心した。
以来、洋装にも合わせた洋風ブランドも製品化し、毎年5月には「新モデル」を発表するのだが、それも30年以上も続いている。
「門外不出の技を公開したのは家業を企業にするため」であり、「伝統の技法を守りながら、新しいモノ作りを続けなければならない」という。これも老舗が永く続いている秘訣である。
何年か前にグッチとコラボレーションしたバッグを作って話題になった。
「製法をオープンにし、誰でも作れるように」という考えは「明太子のふくや」も同様だ。ふくやの創業者は誰にでも教えたという。その結果、明太子は今や「国民食」にもなった。
「太っ腹と自信」が本物を残していくのである。
因みに「印伝」とは「印度伝来」ということのようである。