ワダからのメッセージ (2021/1/25 №78)

ユニクロの創業者、柳井さんの「僕にも出来たんだから…」の意味するところ

2021年1月18日の日経ビジネスの特集は「ユニクロ」だった。中でも特集の焦点は創業者の柳井さんの「考え方、生き方」に当てられていた。

日経ビジネスは毎号、「編集長の視点」というコラムがあり、私はそれに目を通すようにしている。編集長が特集に毎号、どんな考え、想いをもっているかを知ることができるからである。

今回は次のようなことが書かれていた。

「ユニクロは失われた30年で、日本で最も成長した会社である。柳井さんは日本一の富豪になった。しがない会社員である編集長も柳井さんも、若い頃は似たようなもので、柳井さんも自分も衰退する地方で生まれ、高校を卒業して上京、同じ大学、学部、学科で学んだ(しかし、編集長曰く『学んでいない。ろくに学校に行かず、雀荘に入り浸る日々、出来れば仕事もしたくない』と思っていた)ところまでは共通していた」

編集長は大学卒業後すぐ日本経済新聞社に入るわけであるが、柳井さんは卒業後も職に就かずブラブラ。親のすすめでジャスコ(現イオン)に入社したが、やる気スイッチが入らず1年もたたずに辞めてしまう。情熱に満ちあふれる今の柳井さんからは想像もできない。

日経の後輩記者が今号のために山口県小郡の創業の地の写真を撮りに行った。そこは空き地になっていた。この地からユニクロは世界に展開したのである。その写真を見ると「よくぞ、ここから」とため息が出る。

柳井さんは「僕に出来たんだから、誰にでも出来る」と言う。

大学を出て50年のこの期間の生き方は、しがない会社員(編集長)である自分と柳井さんとでは何に差があったのか?

編集長は「見つけた!」と書いている。「読者の皆さんもそれぞれ見つけることがあると思う特集だ」と言っている。

その特集の中でのポイントを私なりにまとめて書いてみるので参考にして欲しい。

ユニクロの事はまさに1995年頃から注目をしていた。特に「SPA型企業」が90年代半ば頃から小売業界で言われはじめ「その代表がユニクロである」と小売りジャーナリストは言っていた。

「S」とは「スペシャリティー・ストア」、「P」は「リテーラー・オブ・プライベート」、「A」は「レーベル・アパレル」の頭文字で、「自社ブランドを販売するアパレル専門店」であり、「製造小売業」とも呼ばれた業態である。

当時、米国カジュアル専門店のGAPは世界一の専門店チェーンだった。その頃、GAPの背中を見た柳井さんが「遠いなぁ~」とみたか「いや、いつか追いつくぞ」と思ったかは分からないが、既に数年前にGAPを抜き、2021年の現在、世界首位も見えてきている。

一方、GAPは苦しみ、もがいている。

直近の売上ではインデックス(ZARA)とH&Mの2強とほぼ肩を並べるところまできている。ユニクロの売り上げはこの30年で400倍までになった(2021 年8月期の連結業績は売上収益2兆 2,000 億円を見込む。店舗数は2020年11月末現在で3681店)。株式の時価総額は約9.7兆円、日本企業で6位になり、5位のNTTを間もなく抜くまでにきている。

この数字だけでもいかにユニクロが成長してきたかがわかる。そして当面は中国、アジアを主戦場としていくロードマップを描いている。この特集でどんなことを柳井さんが考えているか、ポイントは次のようである。

  1. 「正しい経営」をする。正しい経営とは〝ごまかしのないこと〟〝長期的にお客様の生活がよくなること〟〝幸せになること〟である
  2. 企業の目的はどこの国で商売しようともその国の国民を幸せにすること
  3. 名前が「正」ということで、ごまかしをすると父親にものすごく怒られたこともあり、「正しい経営」が原点。「名前に恥じないことをやれ」ということだと思った(正しい経営は松下幸之助さんや稲盛さんも言っている。稲盛さんは何かをする時、『その動機善なりや』と自問したという。「正しい経営」の源流は江戸時代の石門心学の石田梅岩の教えにある ※和田の考え)
  4. 地方の衰退する町の出身である柳井さんがここまで来られたのは「挑戦心、リスクをとる心、勇気があればできるのにそれがないからできないだけ」。柳井さんは「唯一、自慢できることは自分が思っていることを失敗しようとも実行してきたこと」と断言している
  5. 「正しい経営」を強調し始めたのは、人生時間が短くなってきていることにある。確かに71歳である。自分がいなくなっても会社は残らないといけない。お客様に奉仕して、顧客創造、自分たちのファンをつくることが最大の貢献になる、その最終目的が「正しい経営」である
  6. 「社会に貢献できない会社は淘汰される」、この言葉は重い。柳井さんは利益も大事だが、社会に役立たずの会社は駄目と、ユニクロの存在価値を「最高レベル」に引き上げて、それを社員にも伝えているのだと思う。その考えを商品、店舗に表現し、またそのことを利害関係者が共感しているから、株価にも表れていると思う
  7. 「自分は誰よりも勉強している」、先人から学び、本から学び、自分ほど世界の優れた経営者に会いに行った者はいない。そういうことをして、自分だったら、どうなるかを常に考えている。社員も「何のために働いているか」を自分の言葉で言えるようにならないとダメである。自分の人生は自分でしかマネジメントできないのだから」と。柳井さんは、こういう人たちと一緒に働きたいのだと考えている
  8. 当面は、というより「最後まで」という表現で会長をやり続けると断言、CEOやCOOは他の人に渡したい。二人の息子がいるけど、CEOやCOOにはしないで、この人たちを見守る存在にしたい。公開企業だけど、オーナー企業としてやっていく
  9. プロ経営者はユニクロのような変化の激しい企業体では、使いものにならない(過去、玉塚氏や沢田氏というような人を置いたが、みんなうまくいかなかった)。経営者は全部、細部まで知っている。また知ろうとする努力をする人しか生き残れない

というのがインタビューの骨子であった。確かに柳井さんも色々なことをトライして失敗してきている。しかし、それは過去オール善として、それを教訓にして強い信念を築き上げてきた。

GAFAと比べたら時価総額は比べものにならないし、あまり意味もない。それより「いい会社をつくりたい。正しい経営をやり続けることだ」という強い意志を感じた。

柳井さんも71歳になった。心身ともに元気でいられる時間は限られている。元気なうちに「〝正しい経営〟の理念を世界中の13万人の従業員に伝えるのが仕事だ」と言い聞かせているようにも感じる。つまり、柳井さん自身が自分の人生時間との勝負をしているようにも思える。

私は売り上げが2兆円を超えたユニクロであろうと、1億円の売り上げの会社であろうと、「経営者が〝良い会社〟〝生き残れる会社〟をつくる」のは同じだと思っている。

日本には約6000万もの世帯数がある。その世帯の箪笥の中には一つはユニクロの製品があると言われている。まさに国民服になっている。

柳井さんは歴史に残る経営者になるだろう。