ワダからのメッセージ (2021/4/26 №81)

〝修羅場〟を経験した人は強い

修羅場(しゅらば)は仏教用語である。「命を落としそうなくらいの状況をくぐり抜ける」という意味としてとらえてよいだろう。

かの戦争で生き抜いてきた人たち(私の父親もそう)はみな戦場で目の前で共に戦った人たちが次から次へと亡くなっていく様(さま)を見て、自分もいつかそうなるだろうという恐怖に襲われながら戦い、生き抜いた。まさに究極の修羅場をくぐり抜いた人たちである。

この仕事に就いて、多くの経営者に会ってきた。親しくおつき合いしていた経営者が突如、心を開き、修羅場をくぐり抜けた時の経験を話してくれた。その大半が「資金繰り」に関する話しである。友人の会社の保証人になって、その友人の会社が不渡り手形を出して倒産し、その借金が自分にもかかってきて借金取りに追われたという話もあった。

また、ある経営者は愛人をつくってしまい、別れ話しの時に殺傷沙汰になった話し等々…。昔から金と女は問題になる、修羅場になると聞いていたが、まさにそうしたことが現実となった話しであった。

「大病をして治ってはまた病気になり、いつも修羅場であった」という話しもあった。

私の師である船井幸雄さんに出会って、コンサルタントになったばかりの頃の話しを聞いたことがある。関係していた会社が不渡りを出して倒産した。そして自分にも責任がかかってきて「首をつろうとまで追い詰められた」と聞いたこともある。

船井さんからは船井総研(元は㈱日本マーケティングセンター)を立ち上げた頃、お金が無く、数人の社員を食べさせるために修羅場だったという話しも聞いた。

私が船井総研を辞めた数年後、船井さんが芝公園のビル(私もそのビルを借りている)をもう一つの事務所として使っていた時、右翼の街宣車に1週間ほどビルの前で大音でヤジられたことがあった。その時に船井さんは「自分はもうそんなことは大丈夫だけど、周りの人たちに迷惑をかけてしまったことが修羅場だなぁ!」と言っていた。

今、コロナ禍である。もう一年も続くと様々な業種や会社が修羅場に陥っている。なんとしても修羅場を乗り越えて欲しい。

スポーツ選手も修羅場をくぐり抜けて強くなる。まだ最近の話しであるが、水泳の池江璃花子さんが日本選手権で四冠を達成し、オリンピックの出場も決めた。

最初に優勝した時のニュースをテレビで見たが、彼女のインタビューに思わず泣いてしまった。本当に強い子だなぁと思った。

2000年7月4日、水中出産で生まれ、生後3ヶ月で始めた水泳は5歳で4泳法すべてで50メートルを泳ぐという天才ぶりであった。

順調に選手として成長、日本一になった矢先の2019年2月に白血病になったことを公表、それからわずか3年、「泳げなくなる、試合に出られなくなる、目の前の東京オリンピックに出られなくなる、それどころか自分が生きていけるかどうか」という地点からの彼女の絶望との戦いからの出発であった。

神様は残酷なことをするものだ!と思う。凡人の私にはその想いは想像すらつかない。

しかし、不死鳥ごとくの復活とは池江さんのような人にふさわしい。まさに修羅場である。まだ20歳である。

多少の差はあれ、多くのスポーツ選手は修羅場を経験し、這い上がってきている。野球であろうとサッカーであろうと、病魔との闘いであろうとである。

4月に入って、ソフトバンクホークスの王貞治会長とお会いして様々な話をさせていただいた。常にプロ野球全体のこと、いや野球界全体のことを考えて、どうあるべきかを考えていらっしゃる。

未だプロ野球とアマチュア野球の中には大きな壁があるという。それを解決するのは、王会長がプロ野球のコミュッショナーになることではないかと私は提言させていただいた。

まぁ、そんなことより修羅場であるが、王会長はホームラン868本、本塁打王15回、打点王13回など数多くの記録を未だ保持していらっしゃる。

その王さんですら、選手時代に打てなくなったなどの修羅場を経験している。ダイエーホークス時代には試合に勝てず、「世界の王」は生卵をぶつけられるという事件も経験している。

ある時、そんな時の気持ちを聞いたことがあった。「全ての原因は弱いからでファンの気持ちはわかる」というような話しをされた。

だから王さんの勝負観の中には「プロ野球は勝たなくてはならない」という信念がある。

選手時代も監督になってからも、そして球団経営者になっても修羅場をくぐり抜けることができる人間力を持っていらっしゃると思う。

そして2006年には胃ガンによる全摘出手術を経験された。生死をかけた修羅場をくぐり抜けられて今もなお元気である。

王会長には巨人で九連覇を成し遂げているので「ホークスで十連覇を達成してください」と会うたびにお願いしている。

その王会長もこの5月で81歳になられる。そして会うたび、その前向きな言動から学ぶことが多い。

このように私たちは常に「日常という場」「修羅場」という中で日々、生きているし、経営をしていると思う。

今、世界中で新型コロナウィルス襲来という修羅場にある。今、私たちにできることは一人ひとりがかからないように自己防衛をすることしかない。

だが、いつ突然、修羅場に、わが身も会社も襲われるかしれない。だから常に「最悪を考え、準備と覚悟が必要」なのである。

そのために、一日いちにちをどうしていくかが大事だと思う。

 

※社長に襲いかかる修羅場(未上場の場合)

  1. 経営悪化による資金繰り
  2. 自社株式を分散した結果、一番、株式を保有していた人が亡くなった時の争い。特にお家騒動
  3. 突然の社内労働組合の設立
  4. パワハラ、セクハラによる訴訟
  5. トップ取引先(売り上げの30%以上を占める)の突然の取引停止
  6. 基幹工場、店舗などの火事などの消失による稼働停止
  7. 信頼している幹部社員の裏切り行為
  8. 自然災害による業務のストップ