ワダからのメッセージ (2021/5/31 №82)

30年後その会社はあるか

30年という時間は大卒新入社員が22歳で社会人となり、50代に突入する。まさに仕事人として最も活力のある、そして人生の節目となる。結婚、出産、育児を経験し、会社人としてはキャリアを積み、出世競争を経験していく。しかし、順風満帆で人生は過ぎていくものではないことを大半の人は経験し、そう思っているのではあるまいか。

その一つに、世の中の変化に自分がついていけているのか?そして、会社にとって自分は必要な人材となっているのか?がある。

2年前に大手都市銀行、例えばみずほ銀行は「数年間で3万人以上の希望退職者、配置換えをする」と発表、三菱UFJ銀行、三井住友銀行も同様である。

一言でいえば、IT社会になり、銀行経営が根本から経営のやり方を変えなければならなくなっているし、金融商品の多様化が進み、従来のキャリアの人材が必要ではなくなってきているからである。

今、問われているのは、会社も個人も「超スピードで変化する環境にどう対処していくか」である。

5月1日、米国のバークシャー・ハサウェイ会長のカリスマ投資家としても名高いウォーレン・バフェット氏が米ハイテクの巨人たちにも「将来は約束されていない」と警告し、注目を浴びた。「30年後、何社が残っていると思いますか?」と、GAFAMなど世界の時価総額上位20社を示して問いかけた。

そして次に示したのは、32年前の1989年の上位20社だ。その内訳は日本企業13社、米国6社、オランダ1社。バブル崩壊した日本の企業だけでなく、米国の顔だったエクソン(現エクソンモービル)やIBMを含む会社が消え、GAFAMや中国のテンセントなどの中国企業に置き変わった。

インターネット、スマホが普及し、IT社会は日々刻々と企業経営に変化を要求している。これに遅れた会社はアウトである。米コンサルティング会社アリックスパートナーズが、2021年1月に世界の企業幹部に破壊的な経営環境の変化「ディスラプション」の受け止め方を聞いたレポートがある。「乗り切る自信が大いにある」という回答は、中国の50%、米国の48%に対して、日本は半分の24%にとどまる。

逆に「脅威」と捉える経営者は31%と、主要国で最大であった。失敗を恐れてリスクを取れない風土が肝心な局面に表れている。

89年に、世界の時価総額上位500社では200社以上を日本企業が占めていた。しかし、30年後の19年末に40社に激減、コロナを経た今は30社へとさらに減った。何故このように日本は弱体化の道を進んでいるのか?そのヒントが日経新聞のレポートにあると私は思った。

私を含めて日本国民の多くが、コロナ対策への政治家の対応や医療体制の脆弱さや、何故、日本でワクチン開発ができないのか?を感じていると思う。

米国や英国は当初は対応が鈍く、多くの死者を出した。だがその後は緊急時の体制をとり、ワクチン接種で先を行く。日頃から準有事であるイスラエルは、ワクチンの確保に軍が動いたという。台湾では、携帯電話の情報から感染者の行動を追跡するシステムがある。

一方、日本はあらゆる面で有事、準有事への対応の仕組みがないし、「平和ボケ」していて「なんとかなる」と国家も国民全体も思っている。法的な強制力はなく、外出自粛や休業を行政が国民に「お願い」するしかない現状は、その象徴である。

「発出(はっしゅつ)」という聞きなれない言葉を政治家や知事が使う。これは「お役人言葉」とのことだ。国民には伝わらない。「発令」であるが「発令」だと命令の意味が強くなる。「発出」「国民にも理解をいただいているから・・・」ということらしい。責任がどこか曖昧になる言葉のようである。

話を戻そう。日本は戦後、米軍に守られて平和が続き、平時体制でやってこられた。70年以上生きてきた私自身も「有事を感じるような」ことは経験していない。先の戦争への強い反省から国家が権力を持ちすぎないように努めてきた。今後もこれで乗り切れるならそれに越したことはない。だが残念ながら、コロナ危機はこの日本モデルのもろさを映しているのではないだろうか。

この根本原因を日経レポートは三つ挙げている。

その一つが「戦略の優先順位をはっきりさせず、泥縄式に対応してしまう体質」、日中戦争から太平洋戦争がそうだったという。

いったい何を目指しゴールをするのか、目標や方針が明確でないままに戦いが広がり、最後は「根性論」まで出して敗戦になった。

時代背景も違うが、コロナ対策も何を優先的にするのかが国民に見えないまま、2年目を迎えている。五輪もどんな状態だったら実施するのか?中止するのか?もわからないまま開催まで100日を切っているが、多くの国民が「こんな時に五輪を!?」という気持ちになっているのが現実ではあるまいか?

二つめは「政府の縦割組織の弊害」である。その原因の一つは、ワクチンでいえば、接種の管轄は厚労省、自治体との調整は総務省、輸送は国土交通省と、担当が各省庁にまたがるのは米欧でも同じであるが、有事、緊急時の調整力が日本は弱い。

この体質は戦前とほとんど変わらない。その代表的なことは、制度として米国大統領のような権限が日本の首相にはないことがあげられる。まさに政策を調整するリーダー力が劣しいのである。

三つめは「何とかなる」という根拠なき楽観思考だ。だから「最悪の状態」に日本は弱いし、その備えをやっていない。

その代表例が原発である。マグニチュード8~9クラスの地震が来た時、原発はどうなるのか?50キロ、100キロ、200キロ以内の人はどうしたらよいのか、何の提示もない。福島原発も今、第二次災害が起こる可能性すらある。しかしリスクアナウンスは何もない。国民も声を上げない(私もその一人である)。

以上の三つのことは、会社経営にも通じることでもある。この30年でGAFAMに代表されるようなIT社会が誕生したのに、私たち日本人は「失われた30年」と言いながら、国家戦略としてIT産業育成のための戦略的な取り組み、人材育成をしてこなかった。

だから世界で戦える企業が多く生まれてこなかったし、2000年くらいまで成長した産業(電機メーカーなど)や会社が消滅してしまった。

今、日本を代表する会社「トヨタ自動車」が、30年後に存在しているのか?どんな状態になっているのか?が世界から注視されている。それは日本がどうなっているのか?ということでもある。