ワダからのメッセージ (2021/10/25 №87)

アナログビジネスでも「お客様の不満、要望」を解消すれば成長する

工業化社会は製造業が経済の中心になって国家の繁栄、成長を牽引してきた時代といえる。日本は世界の中でも戦後50年はその代表的な国であった。そういう点ではドイツもそうであろう。

しかし、1990年に入り、その前から「情報化社会の到来」と言われてきたが、インターネットが出現して、情報社会を恐ろしいスピードで実現した。その代表が2000年前後に創業した米国のGAFAと呼ばれる企業であろう。このGAFAにマイクロソフトを加えてGAFAMと呼ばれ、今やこの5社の株式時価総額は700兆円を超え、世界第3位の東京証券市場の時価総額と同じくらいの規模になっている。

それに加えて〝情報〟が瞬時に流れ、拡散するようになり、スマートフォンの出現によって個々人の情報のやり取りがコミュニケーションの中心になってきている。工業社会はマスコミュニケ―ションが中心であったが、今はパーソナルコミュニケーションが簡単にでき、社会に大きなインパクトを与えるようになった。その代表がSNSである。

このようなことによって、ビジネスも私たちの生活も大きく変わりつつある。デジタルテクノロジーの進化はネットで物を買うeコマースを生んだ。飛行機やホテルなど、旅行の予約はスマホからするようになった。これらに伴う金融決済はインターネットバンキングで行われ、いわゆるキャッシュレスが進んでいる。

米国ではアマゾンドットコムの巨大化は小さな本屋やレコード店やレンタルレコード店まで消滅させ、中小の小売業を廃業や倒産に追い込んでいると言われている。

そのアマゾンに立ちはだかっているのが世界最大の小売業、ウォルマートである。売上げは50兆円、約230万人の従業員が働くモンスター企業である。ウォルマートは既存店舗の改革をしながらeコマースも成長させている。

カナダ発の「ショッピファイ」は個人や小さな小売店でもこの会社の仕組み(システム)を使うとすぐeコマースに参入できる。日本でも「BASE」という会社が同じ様なサービスを提供して成長している。

今後の日本の小売りビジネスでもやはり既存の小売業もITテクノロジーを使っての宅配サービスはますます売上げシェアを高めていくだろう。

少し前おきが長くなったが、物販業者=小売業はITテクノロジーをどう使って消費者の期待、要望に対応していくかが大事であり、社会システムがデジタル社会に進んでいく中で大変化をしていることを再確認して欲しい。

そうした中で「サービス業は〝人〟が接する、対応してこそ、お客様に感動や信頼を与えるビジネスである」と同時に今までのビジネスモデルをイノベーションし、利用者の不満や期待に応えることによって成長している会社がある。このような会社には業種を問わず成長のヒントがある。

その代表例として「スタジオアリス」がある。大阪に本社を置く日本一の写真館チェーンである。店舗数は480店、売上高は約363億円、経常利益は約49億円という高収益企業である。創業者は本村昌次さん、元々はDPEのチェーン店であったが、1992年にこども専門の写真館をスタートさせた。

そのきっかけはDPEチェーンもこれから経営が難しくなっていくだろうと思っていた頃、写真館もカメラが普及して個人で写真を撮る時代に移行しつつあって廃業が多くなっていた。そんな時「子ども撮影専用」のパンフレットをつくって営業している写真館があり「これだ!」と閃いたという。子どもをターゲットとして暮らしの中に写真館をつくろうと思ったそうだ。

その頃からマーケットは少子化時代に入り、孫にお金を使う年寄りも味方したのだろう。

業界では、カメラマンは技術者であり「シャッター一押し10年」という言葉があるが、これにこだわっていたら新しいチェーン店はできないと本村さんは思ったのである。つまり「職人仕事の否定」からスタートして、若いスタッフに自分が考えていることを伝え、仕組みをつくらせたという。

多くのビジネスで成功しているのは大袈裟に言えば「過去のやり方の否定」である。スーパーもコンビ二もそうであったし、ユニクロもそうであった。写真館も店主がカメラマンで自分が撮った「作品」を自分が選んで渡しているビジネス、そこにはお客さんの「欲しい!」という感情が無かったわけである。

本村さんは子どもの写真で最も大切なのは親が「かわいい」と思うポーズや表情だという。そこで何十枚も写真を撮ってそこから選んでもらう方式にして設備も変えた。カメラマンは子どもの笑顔を引き出すことに集中させる。これなら写真撮影の修業に10年も必要ない。

撮影後すぐ写真を選んでいただくために「フォトセレクトシステム」を導入、当時としては画像をお客様が自身で選ぶことも画期的でお客様の満足度も上がった。

そして男性中心の業界に女性をどんどん採用して今や社員の95%は女性だそうだ。まさに女性の働く場を提供する会社になったのである。

写真館ビジネスの需要は七五三や入学式、卒業式という行事のある時がピークになり、変動する。コストダウンをしなければ利益が出ない。そこで、それまでの1店舗に男性カメラマン2人、女性スタッフ1人の体制を変えた。受付、撮影、着付け、ヘアセット、メークまでの一貫の作業を多能工化してスタッフを2人置く体制にしたのである。

これができるのは女性しかいないという着眼力が功を奏した。こうして女性の戦力化をはかり、結婚や出産などでいったん会社をやめてもアルバイトで戻ってきて繁忙期の戦力になってくれているという。

このようになるために経営理念の確立、そして浸透をはかった。その根本として「人は何のために働くのか?」を入社時から考えてもらい、会社も月次決算をアルバイトにまで公開し、透明性を高める経営をめざしてきたという。

本村さんは単なる経営のテクニックだけでなく、「人が中心の経営」がスタジオアリスの独自の強みだと考えている。デジタルやITだけでなく人中心のサービス業はお客様の感動を生む。お客様の期待に応えることによってまだまだビジネスチャンスがあることを教えてくれている。