「〝大気中の二酸化炭素(CO2)濃度が上がると地球の気温が上昇する〟ことをコンピュータを使ったシミュレーションで解き明かしてきた」ことによってノーベル物理学賞を受賞した真鍋さんが記者会見で国籍を米国籍に変えた理由を問われ「私が日本に戻りたくないのは〝調和〟の中で生きる能力がないから」とウィットに富んだ返答をしたことが話題になった。
今、日本の科学者の間で話題になっている「頭脳流出」の根本の問題がこの言葉に秘められているからである。真鍋さんは2001年に次のような言葉を新聞記事に残して米国に戻っている。
「所轄が違う様々な研究機関との間の忍耐がいる調整業務、研究スタッフ不足、本音を素直に話さない日本独特の習慣…」、米国では考えられなかった本来の研究以外の苦労が重くのしかかっていたことが言葉の端々から窺えた。
米国では好きなだけ研究に打ち込め、研究は何でもやりたいことができ、コンピュータも使いたいだけ使えた。そのようなことも一つであろうが、日本では研究者の予算が減少し、国家的な戦略がないと言われている。
真鍋さんは「好奇心に駆られた研究が少なくなっている」とも言う。「科学は一見、ムダなようなことを何十年もやることに価値がある」ということでもある。
だから日本人のノーベル賞の受賞も遠からず途絶えるだろうとのの見方も多くなっている。