あっという間に2022年も3月に入る。コロナウィルスも世界で落ち着く気配はない。コロナも常に変動、変化している。まさに先の見えない状態といえる。
このような状況を「VUCA(ブーカ)の時代」と言う。
VUCAとは次の四つの単語の頭文字を表わしている。
V=Volatility(変動性)
U=Uncertainty(不確実性)
C=Complexity(複雑性)
A=Ambiguity(曖昧性)
この言葉は2010年代に米国の軍事用語として使われ始めた。冷戦の終結と共に国家間の問題が複雑さを増し、軍事戦略を立てることが難しくなったこと、テロの脅威という新たな戦いが始まったことなど、従来のやり方が通用しなくなった状態を指している。
今のウクライナや台湾問題など、ロシア、中国と米国との覇権問題は、まさに「ブーカ的」である。その後、ビジネスの世界でも使われ始め、VUCA時代の変化として私たちは今、次のような課題を抱えている。
別の言葉でもう少し広く社会をとらえるとしたら「カオス(混沌)」という考え方もある。デジタル社会とアナログ社会のはざまにある今はまさにカオス時代でもある。
1980年代に日本の大企業は「ジャパンアズナンバーワン」と世界でリーディングカンパニー、エクセレントカンパニーとして評価されたが、その後、30年以上にわたってGAFAMに並ぶ世界で評価される会社になっていないし、またベンチャー企業も出てきていない。
それは今になって気がつくのであるが、まさにこの〝VUCAの時代〟が来ていたのにもかかわらず、そこに対応できていなかったのではないかと思う。つまりイノベーションが進まなかったのである。
このVUCAを生んだのは〝グローバル社会〟〝ボーダレス社会〟〝ITテクノロジー社会〟〝米中の覇権社会〟〝化石燃料否定社会〟である。
この30年くらいで上記のような社会に変わりつつある中で、不確実で複雑で先の見通しが読めない時代になってしまった。そこにさらに一挙に変動を与えたのが世界に拡まったウィルスによるパンデミックである。これはさらに今後も世界の関係性や経済発展に大きな影響を与え続けるだろう。
では、中小・中堅企業はこのVUCA時代にどうするのか。2月14日の日経ビジネスの特集は「セブンの覚悟」であったが、そこでセブンイレブンの生みの親、鈴木敏文さんがインタビューで答えていた。
「過去にとらわれることはない。お客様の不便を解消することに力点をおいてきた」、創業以来ずっと言われてきたこと、そして実践されてきたことである。今や「〝不〟の視点、発想こそマーケティングの原則」になりつつある。
〝不〟で始まる言葉はお客様の「心の状態」であり「状況」の現れである。つまり「〝不〟を取り除いてあげることで、心の状態が良くなり、状況も好転する」のである。
〝不〟のつく言葉は次のようにたくさんある。
『広辞苑』より
まぁ、あらためて整理してもよくあるものだと思う。ほとんどの仕事はこの「不の視点」で見れば少しはやるべきことが出てくるだろう。
コロナ襲来でお店の中で食事はできない。「テイクアウト」や「デリバリー」はすぐさまやって欲しかったことである。お客様視点に立てば
入用、必要、要求、要望、不足、欠乏、まさかの時、難局、生理的欲求…がある。
したがって、私達の仕事はお客様が必要とするものを提供する、要望することに応える、お客様が難局を乗り越えるお手伝いをすることだ。
この20年で世界のエクセレントカンパニーになった代表的な会社がアマゾン・ドットコムである。この会社で有名な事がある。あらゆる会議に「エンプティ―・チェア(空の椅子)」が置かれているということだ。この席に人はいないけど、「お客様の席」であり、常にお客様のために何ができるか声を聞こうという象徴なのである。
また、最近のVUCA時代を象徴する出来事としてセブン&アイグループが15年ほど前に買収した「西武百貨店とそごう百貨店を売却する」というニュースがあった。
鈴木敏文氏が社長だった頃のイトーヨーカ堂グループの「百貨店をグループに取り込む」という念願の戦略であったが、日本の百貨店は既に30年も前から斜陽産業化していたのである。百貨店の巨艦店づくりは高度経済成長のビジネスモデルであったということだ。地方百貨店はほとんど消滅し、都市百貨店の郊外都市への出店もほとんど消滅しつつある。そしてパンデミックによって都市型巨艦店もとどめをさされたように思う。
これがVUCA時代なのである。
もう一度BtoCであろうとBtoBのビジネスであろうとお客様の〝不〟考え、イノベーションする時が来ている。